活用事例 響かせる
【大樹生命】

個人の意思を育み生かす「双方向」の人材育成へ

大樹生命事例紹介コラムの動画サムネイル

背景

世の中の変化が激しくなっている昨今、企業や組織は、新規事業の創出や働き方改革など「簡単には答えの出ない問い」に直面しています。過去の成功体験、既存知識の積み上げや延長線で最適解を出すことは難しく、経営者やマネジメント層など、ベテランの力や発想だけで組織を牽引することは不可能になったと言っても過言ではありません。

一方で、だからこそ一人ひとりが本来持っている、個性や特徴、発想や興味を生かせる時代になった、とも言えます。働く一人ひとりの多様性を育み生かすことで、「簡単には答えの出ない問い」の答えをみんなで共創できる。そう気づいた企業や組織が、今、徐々に人材育成方針や働く人との向き合い方を変えようとしています。
その変革の真っ只中にいる企業の一つが、大樹生命です。

大樹生命は、働く一人ひとりの個性を活かし、それぞれの強みを磨いて、ボトムアップで企業に生かす「双方向型の人材育成」へ大きく舵を切ることを決め、「人の大樹プロジェクト」を推進。
中期経営計画に基づき、人事部と人の大樹プロジェクト推進室が連携して、保険会社にとって改めて大切にしたい人材像と育成プロセスの見直し、そして教育体系の刷新を進めていました。

2024年4月、いよいよ新たな人材育成プログラムのスタートが決定。

【新プログラムのポイント】

・キャリアデザインのための育成プログラム

・学びを支えるための、職場の関係性を育む取り組み

・公募型の多種多様な研修やワークショップ

・自走的な学習コミュニティの提供

働く一人ひとりの特性や多様性を大切にし、個々の成長を促すプログラムや、その人自身の未来と大樹生命の未来を共に紡ぐための「新・育成体系」ができたことは間違いありませんでしたが、プログラムを主管する人事部では悩んでいました。

このプログラムをそのまま社内に告知して、果たして働く人たちの心に響くだろうか・・・。
パワーポイント数枚に、文字や図を書くだけで、日々の忙しさに追われている社員の目に留まるだろうか・・・。
一方的に会社側が仕組みを「伝える」のでなく、込めた想いが「伝わる」だろうか・・・。

会社と働く人との間に橋をかけ、一人ひとりの心に「響かせる」ための一手を求めてさまざまに検討を重ね、その中でグラフィックファシリテーションと出会い、本動画作成へと至ります。(※)

(※)この動画は、株式会社セルムとの連携体制・協業にて制作しています。

制作の様子

グラフィックファシリテーションを用いての動画制作の相談は、少なくありません。動画の中で「ストーリーに沿って、だんだんと絵が描かれていく様に視聴者が惹きつけられるから」というのが、その理由です。

ですが、出来上がった動画が視聴者を惹きつけ、心に響く内容になるのは、手描きの絵で描かれている演出方法だけに理由があるのではありません。

一般的に企業の動画制作というと、企業側のオリエンテーションを元に、専門クリエイターのアイデアや演出で作られることが多いですが、私たちグラフィックファシリテーション協会では、動画のストーリーやシナリオづくりなど「制作プロセス」におけるコアな議論に、グラフィックファシリテーションを用いて関わることから始めます。
そのため、企業のご担当者や動画を見てほしい視聴者と一緒に、動画で伝えたい「本質的なメッセージ」をあぶり出し、共に紡ぎ合うことができるのです。そこにグラフィックファシリテーションを用いた動画制作の真価があります。

大樹生命の動画制作では、人事部、人の大樹プロジェクト推進室から、責任者の立場であるベテラン層と20代、そして普段どちらの立場も感じ取って仕事をしている30〜40代の皆さんにご参加いただき、グラフィックファシリテーションを用いて、それぞれの立場の本音を引き出していくことから始めました。

・なぜ動画が必要なのか。この動画によって、誰のどんな状態を目指したいのか。

・新・育成体系で何を実現したいか。なぜ取り組むのか。

・働く人にどうなって欲しいか。一緒にどんな未来を作り出したいのか。

・実際、日々の現場ではどんな葛藤があるか。

・普段言いにくい、心の内には何があるか。

山田夏子さんがホワイトボードに向かっている様子
当たり前すぎて無自覚になっていることこそ、描き出しながら改めて自覚化していく。

ともすると、大樹生命の皆さんにとっては「そもそも論」とも言えるような問いかけばかり。ですが、改めてグラフィックファシリテーションを使ってあぶり出し、ゆっくりと言語化することで、見えてきたことがありました。

・大樹生命のチーム内で月日をかけて毎日のように検討し続けてきただけに、当たり前の意識になりすぎて、今では言語化されなくなっていた想いや前提があること。

・「人の大樹」への理解やイメージが世代で異なっていて、「当たり前」が当たり前に共有されていなかったこと。

・働く人を中心に思っているのに、ともすると会社側の立場での発言に寄ってしまうこと。

・想いを込めて作った施策だけに、施策の話につい夢中になってしまうこと。

・戦略を話す時、そこに込めた意図や背景を話しそびれてしまうこと。

・どの世代の人も、普段の会議では表せなかった声があること。

・お互いに想像もしていなかったような、世代間の遠慮や思い込みがあったこと。

グラフィックファシリテーションでそれらの声をあぶり出し、最終的に動画制作に関わる全員で合意したのは、新・育成体系の中身を「説明する」ための動画でなく、「働く人が主語になる動画」を作ろうということでした。

そのためには、大樹生命で働く一人ひとりが感じているモヤモヤや葛藤を臆せず描こう!

従来の会社側の視点からすると、これまで会社を支えてきたベテラン層の自信のなさや、若手の不安感など、いわゆる葛藤や困難を描くことは、ためらうようなことかもしれません。でも、それを開いて表わすことで、その奥に眠る願いや、表に出せなかった小さな声に光をあてることできる。
正直な声を描くことで、働く一人ひとりの心に橋をかける動画にしましょう、と動画制作の核となる部分をみんなで握ることができました。

山田夏子さんがホワイトボードを使い楽しそうに教えている様子
「自分が話したことが描かれていくことで、普段の会議よりずっと話しやすかった。聞いてくれている安心感がありました」と、参加した若手の方がこの場で本音を語れた理由を話してくれた。
皆で考えている様子
大樹生命の人事部、人の大樹プロジェクト推進室だけでなく、新・育成体系の構築に中長期で伴走してきた(株)セルムの担当者も若手と中堅が一緒になって、それぞれの声を出し合いながら制作方針を握った。

この日の打ち合わせを元に、動画のストーリーと絵コンテを作成。
撮影までの過程で、方針が揺れそうな時や、制作チーム内ですれ違いが起きそうな時こそ、この日、みんなで合意した「働く人が主語になる動画」の目的に立ち返る対話を繰り返しながら、動画制作を進めました。

動画のストーリーと絵コンテを作成している様子
2日間にわたっての撮影本番。描いていく手元を上からそのまま撮影していくので、実は間違え厳禁。イラストを描く順番や、文字の配置などを綿密に確認・調整した上で、集中力を高め、当日は一発撮り・・・!

動画制作の話が持ち上がってから約4ヶ月。制作した動画は、2024年4月の新たな人材育成プログラムのスタートとともに、社内公開。公開から数時間も経たずして、「ワクワクした」「涙が出た」「ほっこりする」といった反響が寄せられ、新・育成体系への参加の後押しへとつながっていきました。
今では、各プログラムの開始前後に研修会場やオンラインプログラムで、あるいはコミュニティ活動時に流すなど、活用範囲を広げているそうです。

【その後、人事部に寄せられた社内の声】

「人の大樹動画」が大好きです。涙が出るときがあります。人生の経験値や業務での知識量で差がある 先輩たちとコミュニケーションを取ることが難しいときに、自分の気持ちや想い、そうなった経緯を説明するとき など、相手の立場に立って、相手を傷付けずに、伝えられるようになりたいです。行き違ったときに、こちらから 歩み寄る手段をたくさん身に着けていきたいです。先輩たちが歩み寄ってくれたり、私の立場に立って物事を考えてくれていることが多くあります。私も先輩たちのようになりたいです。

今回の取り組みを経て、このプロジェクトを主幹した人事部の高橋俊哉さんは、このように語ってくれました。

中期経営計画の節目で、人材育成体系を変更するにあたり、その狙いや意図をどのように伝えるべきか、従来型の社内通知やトップメッセージでも、おそらく「自分ごと」として受け止めてもらえるのは難しいだろうと悩んでいました。

自社のビジョン・ミッションを伝える企業動画やプロモーション映像をリサーチしていた中で、ある労働組合が「その会社で働く人×会社×組合」の一体感を醸成するために制作した、一本の動画(グラフィックファシリテーション)と出会い、心が震えました。

働く一人ひとりは心をもった「人的資本」。経営や人事がわかっていても、ともすると軽視しがちな部分だと思います。前出の動画同様、様々な役割を担う「大樹丸」の多くの乗組員の想いが交わり、各人が持つ力を引き出したい、共創の土壌をつくり大樹を太く大きくしたい、そんな気持ちをもって制作に臨みました。

制作過程では「人の大樹」のありたい姿や到達点などを巡って、世代を超えたメンバーが意見を交わしました。時にはもやもやした胸の内から抜け出せずフリーズしたり、会社目線から抜け出せなかったことも。そんなときに、しごと総研のお二人が「コトバ」を拾ってくださり、「想い」をストーリーに紡いでくれました。

参加メンバーの葛藤やコンフリクトを経て生まれた「人の大樹動画」が伝えたいことは、決して当社固有の課題ではなく、多様な考えが交錯するなかで「もやもや感」を抱え、殻を抜け出せない多くの企業や世代に伝わる内容と思っています。少しでも共感をもっていただける場面があればうれしく存じます。

制作を経て(山田夏子)

この動画のストーリーは、話し合いに参加してくださった若手や、ベテラン層の方々の正直な声がなければ生まれませんでした。
「実は、心の中ではこう思っています」と、上司の前で若手が吐露するのはとても勇気が必要なことだったでしょうし、若手の正直な声があったからこそベテラン層の吐露にもつながりました。若手がそっと話した本音を真摯に受け止めたベテラン層も素晴らしかったです。「自分たちが成長してきた時代とは違うからこそ、働いている中での感覚も違うはず。だからこそ、今の時代の皆さんの声をどうか教えてほしい」と、言ってくださった時には私も涙しました。あの日の対話の感動のハイライトが、たくさん動画に反映されています。

そして、この動画で描いたことは、大樹生命に限ったことではないと思っているんです。閉塞的で、なんでも一人で抱えてしまいがちな今の社会、組織で働く方々が普段なかなか声に出せない本音。それが反映されているのがこの動画だと感じています。
大樹生命の方々の、真摯で等身大のカミングアウトが、現代で懸命に働く多くの人の心を、あたたかく柔らかくしてくれる。肩の緊張をゆるめつつも、何かそっと心に力を宿してくれる。そんな動画になったのではと感じています。

(2024年10月執筆)

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