活用事例 合意する
【軽井沢町】

真意を描かれることで「受け取りあえる」話し合いへ

グラフィックファシリテーションの様子

背景

2019年(令和元年)、軽井沢町では、老朽化した役場庁舎の建て替えおよび周辺整備に関する検討がスタート。しかしながら、総額110億円のコストに対する情報公開が不十分だったとして、2023年2月にいったん事業は凍結。土屋新町長から、建物の機能や内容の再点検、財源の確認、時期など、建て替えに必要な要素を総合的に見直すことが宣言された。

大切な財源を使うことはもちろん、庁舎改築は、軽井沢町の未来に関わること。もっと住民の声に耳を傾け、住民と合意するプロセスを丁寧に持ちながら進めようと2023年9月に再スタート。
公募委員6名を含めた24名の委員で構成された軽井沢町庁舎改築周辺整備事業推進委員会が設置され、具体的な見直しが始まった。

住民の声を聞くため、新たな取り組みとして「住民との対話の場」が設けられた。行政が一方的に説明したり、計画に反対する住民が行政を突き上げたりするような「住民説明会」ではなく、事業の基本方針に反映することができる段階から住民の意見を集める、まったく新しい場づくりに踏み出したのだ。

住民がこの事業にワクワクできるようになったら、もっともっと良い事業になる。「軽井沢町庁舎改築周辺整備事業推進委員会」の中の4人のメンバーを中心に、2024 年5月から6月にかけて、複数回にわたって「対話の場」が開催された。

Step1:「何でも意見を聴かせてください会」(全4回)

庁舎や公民館などを含めた整備事業の見直しにあたり、より良い事業とするためにこれまでのプロセス(過程)に感じているモヤモヤや質問、意見を聴く会。

Step2:庁舎・公民館の基本方針に関する「おしゃべり会」(全4回)

庁舎や公民館などを含めた整備事業の見直しにあたり、より良い事業とするためにこれまでのプロセス(過程)に感じているモヤモヤや質問、意見を聴く会。

実施の様子

グラフィックファシリテーションを用いて実施した「おしゃべり会」は、全4回開催、延べ148名の参加がありました。
軽井沢町は、古くからこの町に住む地元の人だけでなく、移住してきた人、別荘の人、そして観光業などにたずさわるこの町ではたらく人、と、たくさんの関係住民がいます。どの立場の人も、軽井沢に魅力を感じ、愛し、この町がもっと良くなったらいいと願う人ばかり。それでいて、立場を超えて一堂に介して話し合うような機会は、これまでほとんどありませんでした。

町の未来を、そこで生活する方々で話し合うことは、とても大切で素晴らしいこと。一方で、さまざまな立場や背景の人たちがいるため、意見や考え方の違いがあり、その表し方にも違いがある。その中での話し合いは、非常に難しいものです。
そこで、どの立場の人も遠慮なく声を出せる、出した声がどれもきちんと受け取られる話し合いの場づくりのために、グラフィックファシリテーションの導入が決まりました。その他にも心理的な壁を越えるにはどうしたら良いか、関係者がお互いに知恵やアイデアを出し合い、協力しあって、共創的に「おしゃべり会」の開催を迎えました。

その結果、さまざまな年代、居住形態や年数に関わらず、たくさんの方が参加。
グラフィックファシリテーションで、参加者が話した事柄だけでなく、なぜそう発言しているのか、どんな背景や想いから発言しているのかを描き出しながら進めることで、お互いの真意に耳を傾け合い、受け取りあえる話し合いへと深めていきました。それぞれの伝えたい想いを吐露いただき、話し合いは活性化へ。具体的なアイデアや、こうなったらいいなという町全体の雰囲気、将来への願いが話され、描かれ、描かれたグラフィックを眺めてまた話す。
1回の実施ごとのグラフィックを貼り出し、グラフィックを眺めることで前回参加していなかった人も巻き込みながら、4回の話し合いが重ねられていきました。それにより、回を追うごとに共感が深まり、創発の輪が広がって行きました。

実施の様子画像1
参加者が同じ立場で話し、耳を傾け合えるよう、輪になって進める。
実施の様子画像2
言わんとすることを受け取り合えるよう、グラフィックファシリテーションの手法を使って、発言者の意図や背景、ニュアンスや想いを描き出しながら進めた。
グラフィックファシリテーションのイラスト1
「職員が気持ちよく働ける庁舎なら、利用する住民もハッピーになる」との声。連携を取りやすい庁舎が町全体の心地よさをつくる、との願いが込められていた(5/25開催「庁舎の規模・機能」をテーマにしたおしゃべり会より)
グラフィックファシリテーションのイラスト2
見直しまでのプロセスに対する長年の不信感も、明らかに。私たちの町、軽井沢ならもっと工夫してできるはず、との願いや誇りが立ち現れていた(5/25開催「庁舎の規模・機能」をテーマにしたおしゃべり会より)
グラフィックファシリテーションのイラスト3
小学生の女の子からの「大人しかいない、子どもしかいないのはヤダ。みんなピカピカしてるのがいい」との声に、参加していていた大人たちがハッとした瞬間も(5/26開催「公民館の規模・機能」をテーマにしたおしゃべり会より)
描かれたグラフィックを眺めながら談笑する参加者の画像
描かれたグラフィックを眺めながら、さらにワイワイとおしゃべりし合う参加者の皆さん。意見交換は、休憩時間や終了後も続いていた。
意見を書き込んでいる様子
さらに意見を書き込んだり、共感できるところに線を引いたり、印をつけたり。
グラフィックファシリテーションのイラスト4
住民の生の声を聴いた設計事務所の人は、どんなふうに感じていますか? とお互いに心を寄せ合って声を聞き合った(6/8開催「公民館の規模・機能」をテーマにしたおしゃべり会より)
グラフィックファシリテーションのイラスト5
こんな庁舎だったらワクワクする、安心できる、誇りに思う、とたくさんの声が寄せられた(6/9開催「庁舎の規模・機能」をテーマにしたおしゃべり会より)
グラフィックが掲示されている様子
終了後は公民館にグラフィックを掲示・公開。当日参加していなかった住民からも声も集められるよう、書き込みや意見の募集を歓迎した。
軽井沢町の広報で紹介された一面
軽井沢町の広報(令和6年7月1日 第744号)でも、さまざまな参加者たちの声が紹介された。軽井沢町のWEBサイトでは「おしゃべり会」の全グラフィックのほか、この事業に関する歩みが情報公開されている。

話し合いに参加した小学4年生の女の子は、帰りの車の中で、お母さんにこう言ったのだといいます。「未来ってどうなるかよくわかんないけど、こうやって話し合ってつくるんだね」

この対話会の運営に尽力した推進委員会の山﨑元さんは、「幅広い年代やバックグラウンドの住民が、いろんな角度からいろんな意見を出し合い、互いの意見を否定せず、『そんな考えもあるよね』と理解や共感を示す姿はとても美しかったです」と、話してくれました。

一人一人が「個別の訴え」をするのでなく、お互いに耳を傾けあって同じ目線で未来を語る。それが実現したのは、表面的な主張を捉えるのでなく、グラフィックファシリテーションで、その主張の背景や真意を描き出したから。それによって自分の話を受け取られたと安堵が生まれ、その安堵が話し合いの場への信頼を育み、他の人の話に心を寄せることができる。グラフィックとして残るからこそ、話し合いの場が終わっても、次のプロセスへ反映する土台を築くことができた。

その後、軽井沢町では、住民説明会等を経て、8月中に基本方針を決定。今年度中に基本計画、2025年度(令和7年度)に基本設計が策定される予定で、2029年度(令和11年度)の開庁を目指しているとのこと。行政と住民が手を取り合い、模索しながらも、軽井沢らしく最先端のまちづくりを進めています。

(2024年8月執筆)

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